読書2冊:「海神(わだつみ)」「悪い夏」染井為人
「正体」を読んで、染井為人さんの文章のうまさに引き込まれ、
他も読んでみたいと思って見つけたこの二冊。
この作家さん、重いテーマでも、登場人物の心理描写が上手くて、
読みながら、一人一人の気持ちになりきって読み進めることが出来るので、
止まらなくなる。
特に「海神」は、東日本大震災で被災した三陸沖の島を舞台に起きた、
復興支援金の横領疑惑を描いたもので、実際に起きた事件を元にしていると知り、
主人公遠田が、
「災害は儲かる。」
と言い切ったところでは、思わずぞっとさせられた。
物語は、2011年、2013年、そして2021年を、行ったり来たりして進んでいくのだが、
そうすることで、各場面の説明がされていくので、混乱することもなく、とても読みやすい。
エピローグで染井さんが、この物語を書こうと思った理由に付いて、
「人は二度死ぬ。一度目は肉体の死、二度目は人々の心から忘れ去られたとき。我々は、震災を忘れてはいけない。」
と語っているように、自然災害だけではない、人為的な被害が、実は起こっていたことを、
私たちは知るべきだと、深く考えさせられた。
「悪い夏」は、生活保護の不正受給をめぐって、関わる人たちが
どんどん深みにはまっていく負のループの話だ。
最初のうちは、社会問題を取り扱うミステリーと思いきや、
最後は、もうハチャメチャすぎて笑ってしまった。
でも、もしかしたらあり得る話かもしれないなあなんて思った。
本の帯にあるように、本当に、「クズとワルしか出てこない。」
以前、テレビで見た番組を思い出した。
生活保護費の支給日には、銀行のATMに受給者たちの列ができる。
その人たちとは明らかに風体の違う男たちが、保護費を受け取った人たちを待っている。
受給者から、受け取った保護費をピンハネするためだという。
彼らは、ホームレスの人たちに住所を持たせ、アパートに住まわせる。
与えるのは、最低限の食費のみ。
いわゆる、貧困ビジネスだ。
こんなことが本当に行われているのかと驚いたが、
この本の中では、その話題にも触れている。
不正受給をする人、させる人。
本当に必要なのに、何らかの理由で、その保護から取りこぼされてしまう人。
そういう人たちと関わっていくうちに、自身もその渦に飲み込まれて、
自分を見失ってしまう、ケースワーカーの人たち。
人は、簡単に道を踏み外してしまうんだなと思わされる。
この本は、図書館でもなかなか順番が回って来ないほどの人気で、
2025年に映画化も決まっているそうだ。