読書:「ツミデミック」一穂 ミチ
いつもなら、触手が動くのは、「本屋大賞」とか、
映画やドラマになったような、割と大衆ものが多い。
この「ツミデミック」も、直木賞受賞作ということで、あまり構えずに読み始めた。
コロナ渦を舞台に、犯した罪をテーマにして書かれた短編6作が収められている。
最初の1、2作は、読みながらリタイアしそうになった。
はっきり言って、あまり私の好みではない。
でも、賞を取ったくらいなのだから、どこかに引き込まれるものがあるはずだと思って読み進めた。
個人的には、4作目が良かったと思った。
どこにでもいそうな、善良な小市民の主人公が、
パンデミックで無職になり、だんだんと無気力になって行く。
そんな時に、息子を通して、近所に住む老人と知り合い、
彼は、ある下心を持ってその老人に近づく。
人間の弱さと、良心との境目で揺れ動く心が、なんとなくわかる気がした。
生意気に、自分の好みなんか語ってしまったけど、
どの作品も、多分、パンデミックという特殊な状況下では、
起こりうることかもしれないと思わされたのは確かだ。
コロナがなかったら、きっと何事もなく普通に生きていただろう人々が、
簡単に道を踏み外してしまう。
ぎりぎりの所で生きている人の心の動きが、とても分かりやすく描かれているので、
どの作品も読みやすく、後味が良いものも悪いもの(失礼)も、
心に残る作品集だと思う。